ITガバナンスの展開

今日、ITGIが主催するセミナー「事例に学ぶIT統制への取り組み」に参加してきました。


日立・SONYという日本を代表するグローバル企業2社の、経験に基づいたお話が聞けたという点では得るものがありました。特に印象に残ったことは、


「推進の中心となる財務・経理及びIT部門だけでなく、ライン(業務部門)の巻き込みが重要」というお話の中でのこの一節。


”現場の人間にとってはやらされ感が強くある中で、単純にトップダウンで押し付けても有効に機能しない。内部統制はこれまでも各業務部門の中で何かしら行ってきたことであり、そのこれまで行ってきたこととJ−SOXを行う大義名分をリンクさせてあげることから始めるのが重要”


逆に、「J−SOXという”黒船”」の外圧を使って現場の危機感を煽るという方もおり、チェンジマネジメントの方法としては対照的なアプローチで興味深いなと思いました。


又、「過去、日本企業はその雇用環境などを背景に従業員のモラルが高く、内部統制のコストは非常に低かった。しかし、この失われた10年でこのコストが下がってきている」という話については、私が(特に製造業の)現場でよく聞く言葉と一致しており、J−SOXというものが日本の中で受け入れられにくい大きな要因だと再認識しました。


まったく別の視点で個人的に気になったのは、「攻めのITガバナンス」という言葉。J−SOX対応というコンプライアンスの視点ばかりがクローズアップされて、本来あるべき有効性の向上視点が見失われているという主張でしたが、これについては以前のエントリでも触れているように、個人的には「ガバナンスはどこまでいっても守りの話」という考え方とは違うなと感じました。


まあ、この1,2年は「狭義のITガバナンス≒J−SOX対応」と「広義のITガバナンス」への取り組みでIT部門は手一杯になるんですかね。。。ということはいつになったら「攻め」に転じられるんですかね〜。。。。。


理念を「共有する」という実感

最近、私自身のココロを大きく揺さぶる場に参加しました。あるプロのファシリテータによる企業理念に関するワークショップです。

この会社にいてよかった。自分の力を100パーセント、いやそれ以上に発揮できる。私はひとりではない。大きなことに貢献している。自分はひとりではおつていできないことを実現している
〜「組織の「当たり前」を変える」 田村洋一 より〜


その場に参加する以前の自分であれば、会社の「ビジョン」や「理念」といったものに対してこんなことを言うことは「胡散臭い」と心のどこかで感じていました。

理念の浸透。旅の中で私たちは、理念とは「浸透」するものではなく「共有」するものであるという見解に至りました。
〜「感じるマネジメント」 リクルートHCソリューショングループ より〜


しかし、このワークショップを通じて、理念というものを(少なくともその場にいる人間の間で)共有するということ、それによって「胡散臭い」と思っていたことを素直に受け入れられる自分を感じました。

「繋がること」

キリスト教文化の馴染のない土地に住む、キリストの名前や教えをまったく聞いたことがない人々でも、神の存在や、何かしら本質的なものへの畏怖心や進行は、持っているに違いありません。

(相手の心の中にある宝物)を空いてと一緒に見つけながら、共に豊かになること。伝道者の役割とはそういうことです。
〜「感じるマネジメント」 リクルートHCソリューショングループ より〜


このワークショップを通じて一番感じたことは、「ビジョン」や「理念」自体はその会社にいる人間ならば(もしかしたらそうでなくても)自分の中に「ビジョン」や「理念」と繋がりのある想いや経験を持っているということ。


それを踏まえ、「ビジョン」や「理念」を浸透させるとか定着させるという”押し付け”ではなく、どうすればその繋がりを感じて貰えるかというものの見方です。

「考える前に行動し、感じること」

繋がりを感じて貰うための具体的な方法論については、まだまだ勉強する必要があるのですが、一つ言えることは、NIKEではありませんが


「Just Do It! Just Feel It!」


これにつきると思います。


いずれにしても、実際に自分がこのようなワークショップを経験し、ある意味での「成功体験」を得られたことは今後の自分自身の仕事や会社に対する価値観だけでなく、コンサルティングの現場においても貴重な財産になりそうです。


出現する未来 (講談社BIZ)

出現する未来 (講談社BIZ)

組織開発ハンドブック―組織を健全かつ強固にする4つの視点

組織開発ハンドブック―組織を健全かつ強固にする4つの視点

ビジョンを共有する

これまでのエントリーで、CIO(もしくはIT部門)は、相反する要求を求められ、迷走しているのではないか。ということを書いてきました。私のコンサルティングの仕事においても、「そもそもあなた達の目指す姿は何ですか?」という所から始まることも多くなってきたように感じます。


他方、ITガバナンスの仕組みを導入するという仕事の中で、「そもそもこんな管理の仕組みを入れても定着しないのでは?」ということもよく言われます。


こんな中で私が最近、個人的に感じていることは


「IT部門ってこんなに夢が無い所だったっけ?」

もう一度「夢」を見れないのか

私自身今でこそコンサルと名乗って仕事をしていますが、元々はデータセンターの床下を這いずり回っていた人間ですし、ベンダー側・ユーザー企業側双方のそれぞれの内情も見てきているので、今IT部門が置かれている立場は多少なりとも理解しているつもりです。


しかし、皆さん元々は多少なりとも「ITで世の中(もしくは会社)を変えてやる!」位の勢いがあったのではないでしょうか。
それが今、「夢」を亡くしてさまよっているように見える。。。。ITの仕事は「ヒト」が全ての原動力ですので、こんな状態ではどんなITガバナンスの仕組みをいれようと効果は・・・です。


目先のシステム運用・ユーザからの問い合わせ・トラブル対応・ベンダー対応・・・・・・夢を見る暇も無いのかもしれませんが、今IT部門にとって一番必要なのは、もう一度自分達の「夢」を再確認し、共有することなのではないでしょうか。

夢を見ること、共有することの難しさ

とはいえ、そんなに簡単にヒトの心が変わっていきなり「夢」が見られる訳はありません。更にその夢をIT部門全体で共有することはた易いことではありません。いくら綺麗なことばで「ビジョン」を壁にかけても、CIOがビジョンを繰り返し説いてもそれだけで何かが変わることは決して無いと思います。

人のマインドセットが議論の結果として転換することは滅多にない。活動と内省のサイクルを経て転換する。活動はそれについての深い内省が行われてはじめて経験となる  〜H.Cミンツバーグ〜


じゃあどうすれば良いのか。。。は、私自身もまだ手探りの所もあり、1回ではとても書ききれないので、次回以降少しずつ書いていければと思っています。
と言うだけでは何なので、気になる方はまずこちらの本をご覧になっては如何でしょうか。


感じるマネジメント

感じるマネジメント

組織の「当たり前」を変える

組織の「当たり前」を変える

Doing things better と Doing different things

CIOの2つの顔

以前のエントリーでも触れましたが、CIOは2つの側面を経営から期待されています。

  1. 旧来からの「情報システム部門責任者」としての役割
  2. 「ITを活用したイノベーションオフィサー」としての役割


ITに関する仕事のパフォーマンスは、ほぼ人的リソースの質と量及び組織力(関係力)に比例すると思います。
ITリテラシの低い日本企業の経営者の下で優秀な人材を確保し辛い中、これらの異なる役割の両方を社内リソースだけで遂行することは至難の業です。

アウトソーシングをどう考えるか

このような状況の中、規模の大小はあれ何らかの形でアウトソーシングを活用している企業が殆どです。


アウトソーシングについては色々と否定的な意見もあり、実際に諸刃の剣という面(「業務がブラックボックス化する」「ベンダーに囲い込まれる」「社内IT要員のスキル低下」)はあるものの、日本のように職種別賃金を取りづらい雇用環境においてはアウトソーシングをうまく行うことが重要なファクターであると思われます。

どこをアウトソースするのか

よくあるのが「コア業務を残してノンコア業務をアウトソースする」という言葉です。一見もっともらしいのですが、


コア業務って何ですか?


私がコンサルをしていてもこれにすぐ答えられる方には中々お逢い出来ませんが、よくあるパターンとしては、「上流(企画)工程に特化する」というもの。


で、上流工程って何するんですか?

上流(企画)特化のワナ

冒頭で述べたように、今CIOに求められているのは「ITによる効率化」ではなく「ITを活用したイノベーション」です。つまり、単に業務をシステム化するのではなく、ビジネスを変革することが求められているのです。


業務部門と共にビジネスのビジョンを構想し、ITによる変革の可能性と限界を見極め、新たなビジネスのコンセプトやモデルを作り出していく。更にはプロジェクトマネージャとしてアウトソーサと連携していく。これがきちんと出来るヒトは私のようなITコンサルの会社にいても中々いません。


ホントに出来ますか?


結局大多数の「上流(企画)特化」したIT部門がどうなるかというと、単なる業務部門とベンダーの伝言役。

経営者は優秀なリソースを確保し、IT部門は危機感を持って

この問題については、ヒトの問題であるだけに残念ながら一朝一夕に解決出来る手段はありません。まず、経営者はきちんとIT部門に優秀なリソースを確保出来るようにすること(業務部門の優秀な人間を引っこ抜いてでも)、IT部門は自らの”失業の危機”だと思ってどんどん業務部門の中に入り込んでいくと同時に、自らの「足元」である仕事の品質と説明責任を向上させて下さい。

ユーザー企業にとってのITアウトソーシング

ユーザー企業にとってのITアウトソーシング

ITガバナンスの難しさ

ITガバナンス・マネジメント分野の第一人者でさるMITのピーター・ウェイル教授は、ITガバナンスを整備する際に重要なことについて、


コーポレートガバナンスの仕組みと整合をとること


だと言っています。


一方で、現在のコーポレートガバナンスの仕組みはITに関して殆ど考慮されていません。
例えば、IT予算やコストを管理する仕組みを整備しようとしても全社の予算管理の仕組みの中ではITに関してなんら有益な情報を得ることは出来ないため、多くのIT部門では独自に管理会計的な仕組みを作り上げています。


先日エントリーしたIT投資管理についても同様で、本来であれば「投資管理」の仕組みの中にITに関する要素を含めるというのが本筋だと思いますが、実際には”IT”投資管理という別の仕組みを作らざるを得ません。


結果として、IT部門の中に「ミニ経営企画・財務部門」が出来てしまいます。実際にIT部門というのは「会社の中の別会社」のように戦略策定から予算策定・投資管理・施策(プロジェクト)の実施・人材確保、育成・品質管理などなど、一つのバリューチェーンを形成しています。


このことが一概に悪いとは思いませんが、IT部門という「良く分からない組織」を形成している一因であることはまちがいないでしょう。


状況にもよりますが、”IT”という冠を外してコーポレートガバナンスの仕組みの中にITを融合させていくことが本来あるべき姿ではないでしょうか。



IT Governance: How Top Performers Manage IT Decision Rights for Superior Results

IT Governance: How Top Performers Manage IT Decision Rights for Superior Results

IT-Governance

IT-Governance

ゆうちょ銀行の基幹システム、NTTデータが落札

勿論私はこの案件について一切関与していませんし、この競争入札に不正があるとも言うつもりはありませんが、はっきりいって「出来レース」でしょう。


IT業界の方であれば、郵政公社の銀行システムがNTTデータにほぼ丸投げされていることはある意味常識として誰もが知っている話。


ゆうちょ銀行側も、既存システムのことを考えるとNTTデータがどうしても落札しないと実際問題立ち行かない程囲い込まれているのである意味「やむなし」なのかもしれないのでまあ妥当といえば妥当な線。


勿論旧UFJ銀行のシステムも合併時には「システムのレベルはUFJの方が上」と噂されていた位なのでシステムの品質自体もそれなりに高いと思われます。


私がこの件で殆どコメディだなと思うのは、NTTデータと日立側はどうしても落とせない案件なのでダンピングに近い入札をし、どうしてもNTTデータに落札して欲しいゆうちょ銀行側はわざわざ「落札価格が適切だったどうかを調査するために決定を延期」するという「ポーズ」をとったことです。


IBMは恐らくそれも分かった上で入札してたんでしょうね。これで暫くしてIBMが別の案件を取ったらもっと「コメディ」ですけど・・・


まあこの件に限らず官公庁絡みのシステム案件の入札は「コメディ」の連発なんですけど・・・

IT投資管理

ITガバナンスに関する話で経営者からよく聞く話としては、


「ITの投資対効果が分からない」


というお決まりのセリフ。
一方、IT投資対効果の評価方法については、ここ数年でそれなりに固まりつつあります。


ITポートフォリオ戦略論―最適なIT投資がビジネス価値を高める

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IT投資マネジメントの発展―IT投資効果の最大化を目指して

IT投資マネジメントの発展―IT投資効果の最大化を目指して


又、官の側においては経済産業省「政府調達のためのIT投資評価に関する調査研究」を2004年に公表するなど、こちらも方法論を明確に提示しています。


最近のトピックとしては、「Val−IT」というIT投資管理に関する包括的なフレームワークも出てきています。(こちらはITGIのHPからダウンロード出来ます


個人的な経験知ではありますが、実際の企業におけるIT投資対効果を評価する仕組みも多くの大企業のおいては何らかの形で導入されていると思われます。


それでも「ITの投資対効果が分からない」という言葉をよく耳にします。


私なりにこの言葉を解釈すると、「ITの”コスト”対効果が分からない」ということではないでしょうか。


コスト=リターンを見込んでつぎ込むお金+定常的にかかるお金


だとすると、「新規もしくは再構築に対する”投資”効果」の管理はされていても、「現状のシステムを維持・運転していくための”経費”」を含めたコストの妥当性が分からないということになります。


ITコストの特徴は、この「維持・運転のための経費」の割合が高くなるという点にあり、IT部門以外の人間にはこのことが今ひとつピンとこないのではないでしょうか。


IT投資評価の仕組みが固まりつつある一方で、「投資する→システムが完成する=無形固定資産化する」という図式の中で、資産化したシステムに対する経費の妥当性を評価する、もしくは(レガシー)資産そのものの価値を評価する方法論はまだまだ発展途上の段階にあると思われます。


このことが冒頭の発言に繋がっているのではないでしょうか。


IT資産の評価については、比較的経済的視点や戦略との整合性・必要性といったビジネス視点を中心に評価する投資の評価と異なり、システムの構造そのもの(場合によってはシステムの運用方法にまで)に踏み込まないと評価が出来ないため、一筋縄ではいきません。


まずは「経費」と「システム構造」の見える化といった地道な作業から始める必要があります。